i(アイ)/西加奈子 感想・解説 うつ病さんの読書記録【感動本】
・〇〇でなければならないという思考が強い人
・幸せな環境にいると分かっていても幸せだと思えない人
ひとりぼっちな気がする…。
もっと辛い人はいるから自分はきっと幸せなんだ。
もっとしっかり生きなきゃいけないのにな。
そんな人に紹介する感動本は、西加奈子さんの小説『i(アイ)』です。
西加奈子さんはサラバ!を読んでからハマっておりまして、色々な作品を読んでいる最中です。
さて、『i(アイ)』を読めば、以下の3つを学ぶことができます。
・◯◯でなければ思考からの脱出法
・苦しいときは苦しいと言っていい
男性よりも女性の方が共感できる箇所が多いと思います。
著者 西加奈子ってどんな人?
『i(アイ)』の説明の前に、著者である西加奈子さんについてご説明させてください。
西加奈子さんの小説は”海外”のエッセンスが入ることが多いです。
これは西加奈子さんが子供時代に海外暮らしを経験されていた影響でしょう。
日本では大阪で育ったようで、テレビのインタビューを受けた際には関西弁を話していました。
私のオススメは『サラバ!』です。
i(アイ)/西加奈子ってどんな本?
『i(アイ)』は長編小説です。
文庫本にして323ページのボリュームです。
i(アイ) あらすじ
あらすじはというとですね・・・
「この世界にアイは存在しません。」
入学式の翌日、数学教師は言った。
ひとりだけ、え、と声を出した。
ワイルド曽田アイ。
その言葉は、アイに衝撃を与え、彼女の胸に居座り続けることになる、
ある「奇跡」が起こるまでは――。出典:i(アイ)/西加奈子
背表紙から引用させていただきましたが、これだけでは分かりにくいですよね。
ということで私なりにネタバレなしで補足します。
アイはアメリカ人のダニエルと日本人の綾子の娘。
ただアイは血の繋がった娘ではなく、シリア出身の養子だった。
アイは「どうして自分が選ばれたのだろう」と思い悩み、苦しんだ。
自分が”不当な幸せ”を手にしていると感じていた。
そんなアイが高校生になって初めての数学の授業である言葉に出会う。
「この世界にアイは存在しません」
数学教師のいう”アイ”とは虚数(imaginary number)のことである。
ただアイ本人はこの言葉に寂しさを感じつつも、ほっとしていた。
「本来はこんな幸せな場所に存在していないのに」というアイの気持ちに、「この世界にアイは存在しません」という言葉はそっと寄り添った。
そんなアイが高校、大学を経てどんな人と出会い、何を考え、どういう人生を歩むのか――。
これはアイの人生の物語。
i(アイ)/西加奈子から学べる3つのこと【うつ病さんの感想】
ここからは小説の一部を引用しながら、冒頭に説明した学べる3つのことをご説明します。
・◯◯でなければ思考からの脱出法
・苦しいときは苦しいと言っていい
なお、文こそ引用しますがストーリーには一切触れません。
なので、ここはネタバレなしという扱いにさせていただきます。
それではいきます。
① 孤独
私はうつ病で、1年以上通院をしています。
そんな私がとっても共感した孤独にまつわる描写があったので、ご紹介します。
ひとりの方がいい。きっとその方が楽だ。アイは何度も自分に言い聞かせた。それでもからだが言うことを聞かなかった。夜になると子どものように泣き、でも子どものようにその孤独と寄り添うことは出来なかった。
出典:i(アイ)/西加奈子
この言葉には本当に共感しました。
私と似たような症状で苦しんでいる人なら共感できるかもしれません。
うつ病になると人と会うのが怖くなるんです。
友達から連絡が来ても返すこともできません。
その結果、どんどん孤独になっていきます。
でも、それがものすごく寂しいんです。
自分から望んで孤独になっているはずなのに、その孤独に耐えきれなくなるんです。
今回この描写を紹介したのは、同じように苦しんでいる人がいることを知ってほしかったからです。
孤独を強く感じているみなさん、その悩みはあなた一人だけのものではありません。
まず私がいますし、きっと世の中にはもっとたくさんの人が同じ悩みを抱えています。
そんな見えない誰かのことを想像してみてください。それで少しでも孤独感が和らいだら良いなと思います。
② 脱・◯◯でなければ思考
アイは養子であることから、今の幸せな居場所を本来の自分の居場所だとは思えずにいます。
そんなアイに対して、親友のミナはこのように言葉をかけます。
「養子といったって絶対にひとくくりには出来ない」
出典:i(アイ)/西加奈子
同じ養子でも祖国に自分のルーツを探しに行きたい人もいれば、ただ観光として訪れたい人もいます。
つまり「養子だからこうでなければならない」なんて思う必要はないんです。
この考え方は私たちの生活にも応用できます。
なぜなら私たちの生活にも、〇〇でなければならないの思考に陥る機会がたくさん潜んでいるからです。
例えばこんな感じです。
- 仕事ももう5年目なんだからより厳しいノルマを達成しなければいけない
- 結婚するんだから300万円は貯金がなきゃいけない
- 女だからかわいらしく振舞わなければいけない
ついついこのように考えてしまいがちですが、「△△だから」とひとくくりに考えてしまう必要はないんです。
あなたは「5年目の社員」でも「結婚する人」でも「ただの女性」でもなく「あなた」なんです。
このように自分を自分として認識できるようになることが、うつ病には大切なんです。
うつ病になるととにかく周りと比べてしまいます。
「同い年はもうみんな結婚してる。なのに私は…」
「後輩の方が私より成績いい。なのに私は…」
ですが周りと比べて焦る必要はないんです。
焦ってしまう気持ちはわかります。
でも、私たちは私たちのペースで生きていきましょう。
③ 苦しいときは苦しいと言っていい
自分よりもっと苦しんでいる人がいる。
だから私なんかが苦しいなんて言っちゃいけない。
こんな風に思ったことはないですか?
もしそのような経験がある人にはこの言葉を紹介します。
「感謝とか幸せって、努力して思うことではないんだよ。自然にそう思うことなんだから。アイがそう思えないのなら、無理に思うことはない」
出典:i(アイ)/西加奈子
辛いのなら辛いと言っていいんです。
苦しいのなら苦しいと言っていんです。
辛さや苦しさは人と比べるものではありません。
もしあなたが苦しいと思うなら、その気持ちを否定しなくてもいいんです。
i(アイ)/西加奈子 ネタバレあり解説
ここからはすでに『i(アイ)』を読んだ人向けの解説です。
ネタバレありとなるのでご注意ください。
ネタバレを読みたくない人は次の章へ飛ばしてください。
『i(アイ)』の重要人物はアイの親友のミナと夫のユウです。
これらの登場人物について、著者の西加奈子さんはこのように語っています。
「アイはIで、ミナはALL、ユウはYOU。
(中略)ミナは理想的な子として書いたんやけど、それはそういう社会でありたい、個人が自由でいるのを、ずっと浜辺で温めようと待ってあげられるような社会でありたいという願いでもある。物語のなかのミナにも悩みがあるように、(ミナ=社会)にも悩みはあるし、失敗してしまうことだってある。ユウもそう。(自分=アイ)がいてこそのYOU。自分のことをまず大事にして、そこから、誰かを、社会を考えていかないと」出典:i(アイ)/西加奈子
これを踏まえての私の感想はこんな感じです。
- 個人を見捨てないのが理想の社会
- 理想の社会でも理不尽はある
- ひとりひとりが想像することが大切
西さんはミナを理想的な子(=社会)として書いています。
アイはふさぎこんだときも、最後にはミナを頼ってきました。
そんなアイ(=個人)を待ち、居場所を与えてあげることが、ミナ(=社会)の役割なんじゃないでしょうか。
しかし、たとえ理想的な社会であっても理不尽なことは必ずあります。
『i(アイ)』でいえば、妊娠についてです。
自分の血の繋がった子どもを渇望するが妊娠できないアイ。
LGBTとしてパートナーもいるのに望んでもない妊娠をしてしまったミナ。
このような理不尽は社会につきものです。
そんな理不尽だらけの社会でも、みんなが個人を大切にしていこうよと『i(アイ)』は教えてくれているんです。
最後に、作中に何度も登場するセリフについて。
「この世界にアイは存在しません」
私はこのセリフを、「たとえ存在していなくても、私が想像すれば存在する」ということだと解釈しています。
どういう意味?
要するに自分次第ということです!
内容に触れながら説明しますね。
虚数(i)はこの世に存在しない数字です。
でも学問上は確かにある概念です。
アイは養子であることから、「自分は本来ここにいるべきじゃない」「自分は不当な幸せを手にしている」という気持ちを拭えずにいます。
そんなアイにとって、「この世界にアイは存在しません」という言葉は、大きく心に残ったわけです。
これと似たものが”世界のどこかで起きている悲劇”です。
アイは世界中の事件や事故で亡くなった人の数をノートに記録しています。
その理由をアイは、「知っておきたかったから」と言っています。
つまり、遠く離れた世界で起きていることを想像することで、同じ世界で起きていることだと認識していたかったんだと思います。
私がこのように思った理由は、作中で引用されていた『テヘランでロリータを読む』という本の一節です。
読者よ、どうか私たちの姿を想像していただきたい。そうでなければ私たちは本当に存在しない。
出典:『テヘランでロリータを読む』/アーザル・ナフィースィー
虚数も世界のどこかで起きている悲劇も、私たちが想像しなければ、存在しないものになってしまうんです。
つまり、ひとりひとりが想像することが大切なのかな、と感じました。
個人が個人を想像することで、社会がより良いものに繋がっていく。
そう信じたいんです。
i(アイ)/西加奈子 感想・レビュー うつ病会社員の読書記録 まとめ
最後に『i(アイ)』に対する個人的な感動評価をさせていただきます。
自分の気持ちに合った本を読むのが一番ですからね。
本を選ぶ際の参考にしてください。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。